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市民はねじを巻く

電子書籍、ガジェット、雑記を中心に書いています。

車間距離の王様に理由なんていらない

いつかの冬休み、実家に帰省したときの話。

 

私は18歳の頃に運転免許証を取ってから、ほとんど車の運転をしていない。もともと運転は好きでも得意でもなかったし、上京したこともあって運転する機会にも恵まれていなかった。

 

それでもたまに実家に帰省した時に、気分転換に少しだけ車を走らせることはある。見慣れた景色をドライブしながら眺めるのは気分がいい。それでも遠出はしたくはないから、近所のテニスコートやショッピングモールに行く程度だけどー

 

冬に帰省して行う家族イベントなんて、せいぜい年初めの親戚周りくらいなものだ。しかも特段楽しいことでもないし、できればさっさと済ませたいと思っている。そんな心持ちのせいもあって運転は家族に任せている。その日の運転手は母だった。

 

年初めの忙しい時期もあってか、道路はいつもより渋滞していた。信号待ちをしている時間が退屈で、助手席の窓から景色を眺めたり、目についた看板の文字を意味もなく声に出してみたりしていた。

 

さすがにやることがなくなったので、今度はこの渋滞を眺めることにした。前にいる車は所沢ナンバーだなとか、車種はなんだろうなとか。そんな中で、前の車との車間距離が結構空いていることに気づいた。普段なら目に止まることでもないし、尋ねることでもないのだが、この時のわたしの思考回路はひどく停滞していて、幼児のように思ったことは口に出してしまうようになっていたらしい。そのようにして、車間距離を空けている理由を母に尋ねた。すると、

 

 

「あたしは、車間距離の王様だからね」

 

 

てっきり「安全運転のため」とか言うのだろうと思っていたが、その返答はわたしの想像を超えたものだった。おもわず笑ってしまった。車間距離の王様? なんだろうそれは?

 

 

「車間距離の王様はいつも十分な距離を保つのよ」

 

 

この意味不明なやり取りに、その場では笑ってお終いだったが、振り返ってみるとそこにはわずかに光るものがあるように思えた。

 

 

例えば、わたしが車間距離を取ることの理由を聞かれたとしよう。

 

その場合「安全運転」をキーワードにして理由を述べると思う。または、初心者マーク時代からの癖だから無意識だった、という事も理由の一つとしてあるかもしれない。

 

でも、これをよく考えると、それっぽい理由が湿布のように張り付いているだけにすぎないことに気づく。(明確な理由がある人はもちろんいるだろうけど)だから、本心を口にするならば、「理由はわからない」と答えるべきだ。理由なんてないのだから。社会人として社会生活を送っている時は無意識にベターな回答が褒められるが、こういった、ある意味で遊びの場でも、ありもしない理由を作っていたことに、なぜだかひどく情けなさを覚えた。

 

この出来事を振り返って、まあ、車間距離の貴族だろうが公爵だろうが殿様だっていいけど、「存在の故にそうなる」っていう返しのもたまにははアリだななんて思った。どうせ、本心ではない湿布がもれなく貼り付いてくるのだから、それはサロンパスでもフェルビナクでも自分の好きなものを貼っておけばよいだろう。

 

...

 

あなたが普段から心掛けている清潔感のある服装や、クールで几帳面な性格、ユーモアに富むセールストーク、おまけに視野も広く、周りに目を配ることもできる特徴のいずれかについて誰かに理由を問われたならば、

 

 

「わたしは、セールスマンの王様ですから」

 

 

なんて答えてみたら、あなたの魅力が数センチ上がるかもしれない。

 

 

以上です。